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Dialogue−01

Masaya Yamada ×
Shingo Ishida
Sei Matsushita


画家・山田雅哉と、山田が今話したい人との対談企画を、このブログ内で始めることになりました。
第一弾は、名古屋のセレクトショップ〈regatta〉オーナー・石田眞吾さんと、当サイトの英訳を担当してくれた友人・松下聖さんをゲストにお招き。
服や趣味を通じて、普段から親交のある3人。どんな対談となるでしょうか。

山田 今回はありがとうございます。

石田松下 よろしくお願いします!




ー 普段から仲のいい3人、ということですが、馴れ初め(?)を教えてください。

松下 俺が最初に石田さんの〈regatta〉にお客さんとして来ていて、そこに雅哉さんを連れて行ったんです。

山田 松下くんとはもともと知り合いだったんだけど、洋服の趣味が似ていたり、他にも色々な共通点を知って、より仲良くなりました。最近だと、お互いインドカレーとか麻婆豆腐とかを作るのにハマっていて、昨日作ったよって報告しあったりしてるよね(笑)店主の石田さんは博識で、洋服に限らず色々と教えていただいてます。

石田 2人ともよくお店に来てくれて、楽しい時間を過ごさせてもらってます!


(左から)山田、松下さん、石田さん

ー 〈regatta〉では、山田の作品を一部展示販売しています。お客さまの反応はいかがですか。


石田 実は馴染みすぎていて、売っていると気付いてくれない人も多いんです(笑)だけど皆、印刷物とは明らかに違うということは分かって、一度足を止めてくれる。販売面では課題がありますが、そういう反応を面白いなと思っています。

山田 描いている側としては、店に馴染んでいると言ってもらえるのはとてもありがたいです。もちろん所有してもらうことは幸せなので、将来的に、服が好きで買い物に来た人が、店に馴染んでいたように家に馴染ませて飾ってくれる…そんなふうになったら嬉しいですね。

松下 このあいだ雅哉さんのドローイング展を観に行ったんですけど、会場が植物屋さん・家具屋さんみたいなところだったじゃないですか。それこそ空間に馴染んでいたので、そういう中で絵を観れたのがよかったなと思いました。これは個人的な意見だけど、百貨店で観た時は「絵を観る」でしかなかったのに対して、家に飾るイメージがしやすかったです。

山田 僕自身、前回の展示ではそういう反応をいただくことを目標としていました。実際、「これ家の〜に飾ったら良さそう」という会話が会期中多々聞こえてきたので、よかったなと思います。

松下 自分もあの展示を通して、生まれて初めて絵を飾りたいと思いました。俺の部屋にはアメリカのビンテージトイとか沢山あるんだけど、そういう中に置いてもいいじゃん、とイメージが膨らんで。

石田 山田先生のドローイングは抽象的なので、観る側に自由があるのもまた良かったのかもしれないですね。今はお店で「ONE STAR」を扱わせてもらってるけど、そういうドローイングも、今後お店に置いてみたいです。

松下 ちょっとズレるんですけど、自分のものを描いてほしいという人はいないんですか?俺だったら、自分が履いている靴とかジーパンを描いてほしいんだけど…

山田 日本画材に、ジーンズと同じ「藍」を絵の具にしているのがあるから、それで描いたら面白いかもね!

松下 それ、良い!描いてほしいです!実は、このあいだ30歳になったんだけど、その記念にジーンズ買ったんです。還暦の時にちょうど100年ものになるように、70年前のリーバイス。その頃はいい色落ちしてるはずだから、今のジーンズの色を絵で残せたら、最高だと思う。

山田 松下くん、そういうふうに、先を見越してものを選ぶこと多いよね。すごく良いことだと思うんだけど、その感覚はどこから来てるの?

松下 これは多分性格なんですけど、基本頑固だから、決めたことはずっと続けなきゃ嫌なんですよね。服も、10年後にも着れなきゃ嫌で、且つ10年後に価値が上がるものを選べる自分でありたい。本物って価値が上がっていくと思うから、今本物を判断出来るように、時間が経った時のことを考えていたいんだと思います。話が戻るけど、だから、雅哉さんの絵にも今興味があるのかも。


僕は、世の中にあるものすべて
本物だと思うんですよ


ー 先程「本物」というワードが出ましたが、「本物」とは何だと思いますか?

石田 これは難しい質問だよね。「誰が見ても優れたもの」「他と比べようのないもの」あるいは「オリジナル」。この辺が本物と呼ばれるのは間違いないんだけど、それだけが本物かというと違う。だからすごく説明しづらい。だけど、反対に何を偽物かというと、これは説明しやすい。あたかも本物であるかのように見せようとしているものを、僕は偽物だと思います。

松下 レプリカってことですか?

石田 レプリカは確かに本物に似せたものだけど、今話している本物と偽物の定義でいうと、レプリカが一概に偽物だとも言えないかな。山田先生はどう思う?

山田 …本物のレプリカも、偽物のレプリカもあるんじゃないかな。本物と言えるかどうかは、そこにリスペクトがあるかどうかってところですよね。

石田 そう!だから例えば模写とかも、オリジナルに対してリスペクトを持って緻密に描いた…みたいなものは、「模写の本物」だと思うわけです。

松下 なるほど。すごく共感します。レプリカでも、よく出来ていて、心動かされるものってありますもんね。

山田 そこに(完成に)向かっているときに嘘がないもの、ということなんでしょうね。絵に置き換えても、勉強が足りない絵、たとえばデッサンが狂っているとかはあるけど、表現として間違っているものはない。その人にとっては真実で、本物。だから、下手でも心動かされるものってあるんですよね。逆に、どんなに精巧でも、そこに向かっているときに嘘があるものには感動できない。本物ってそういうところかもしれないな。

石田 だから究極、僕は、世の中にあるものすべて本物だと思うんですよ。芸術であれなんであれ、明らかに人を騙そうとして作られた以外のものは、大きく言えば全て本物です。


昨日の自分と比べてどうか
っていうところだよね


ー みなさんが思う本物について、興味深い話を聞かせていただきました。それでは、「自分自身」が本物となるために、何を大切にしていますか?

山田 さっきの絵の話のように、自分が向かうところに嘘なく生きる…ということを、僕はいつも思っています。僕の場合はやっぱり絵しかないけど、正直にまっすぐに、絵に向き合い続ける。これを繰り返すしかないのかな。

松下  雅哉さん、その軸があるからか、他の意見を否定することって滅多にないですよね。

山田 若い頃はそういうのもあったよ(笑)だけど人を否定しないと自分が立てない、じゃなく、自分一人で立てる何かがあるといいよね。

石田 自分の中でブレないものは持ちたいよね。僕さ、基本業者としかやり取りをしないから、他の店のことってあまり知らないの。売れるのかなぁと心配になることはあるけど、結局は自分のセレクトに自分が納得できるかどうかだから、それでいいとも思ってる。

松下 きっとその先に、自分を本物と呼べるかどうかってところがあるんですよね。俺は2人みたいに何かを作る人間じゃないけど、やっぱり昨日より今日、今日より明日っていう思いは強くて、英語の勉強しない日があると不安になるんです。現状維持とはすなわち後退って誰かも言ってたけど(ウォルト・ディズニーだっけ?)、本当にその通りだと思う。だからやり続けるしかないんだけど、やり続けたらやり続けたで、ゴールなんてないんだよなぁ。

山田 昨日の自分と比べてどうかっていうところだよね。死ぬまで終わりがない、だけど、あくまで完成を目指す。

石田 北斎は、晩年に言ったんだよね。「まだ納得できない」って。「あと5年 自分を生かしてくれたら完成できるのに」って。かっこいいな〜って思ってさ。あんな絵描いてても、自分に納得できないんだよ。

山田 納得してしまったらそこで終わりなのかもしれないですよね。

芸術って多分、
理解するものじゃないんですよね


石田 だけど、ゴールのないまま 何かを生み出し続けるというのは、並大抵のことじゃないよな。実は、僕の死んだ弟が抽象画を描いてたんですよ。なんかよく分からないでっかいボーダーを描いていたけど、今思うと、弟の方がよく出来ていて、色々なことを考えたりしていたんだと思う。

松下 俺はとてもじゃないけど出来ないな〜。雅哉さんのウェブサイトの英訳を今回させてもらったんだけど、正直よく分かりませんでした(笑)自分なりに飲み込んで、それから絵を見ても、やっぱりよく分からない。でも芸術って多分、理解するものじゃないんですよね。カッコイイとか、この色が綺麗とか、なんか目が離せないとか。そういうものでいいのかな。

石田 どういうふうにも受け取れるから、自分が試されている感じもする。アーティストのすることというのは、まったく真似ができないんだよなぁ。

山田 そんな偉いものじゃないですよ…もちろん自分は毎日模索し、本気で戦っているけど、だからと言って、観る側にも「こう観ろ」と強要するようなことはしたくない。余白みたいなものを持たせるように、いつも意識はしています。でもこれは、アーティストに限らず、昨日より今日って完成を目指す すべての人が持っているものなんじゃないかな。だって勉強すればするほど、答えは一つなんて言い切れないもん。

松下 余白って良いですね。今回の英訳、雅哉さんの絵は観る側に委ねているところがあるな〜と思っていたので、単語だったり言い回しも、そういう想像する余白を大切にしたんです。仕上がりには満足しています!

石田 自分で限界を決めず、楽しく、伸びていけるといいですね。お互いに。そしてたまに息抜きで、こうしてお店に集まってもらって(笑)

松下 たまにはこういう真面目な話も面白いですね。

山田 自分を見つめ直すきっかけにもなりました。これからも、よろしくお願いします!

山田のドローイングを持って。ハンバーガーにもグランドキャニオンにも見える!と松下さん。石田さんは風にはためく星条旗だ、と、それぞれ“らしい”感覚でお楽しみいただけました。

今回の対談は、閉店後の〈regatta〉で行いました。

regatta
名古屋市千種区東山通3丁目26番ハイネス東山3F
TEL 052-753-7563

営業時間(木曜定休)
平日  15:30ー19:00
土日祝 11:00ー19:00

ぜひ足を運んでみてくださいね。


●今回のお相手

・石田眞吾 Shingo Ishida
1959年愛知県名古屋市生まれ。SHIPS、patagonia、GAPを経て、2013年末、名古屋市千種区東山通に〈regatta〉をオープン。「アンファッショナブル・ファッション」を軸に、アメリカものを中心にセレクトしている。

・松下聖  Sei Matsushita
1989年長崎県生まれ。進学を機に愛知に移る。在学中にカナダ、オーストラリアに留学し、オーストラリアでは教員として勤務。現在、名古屋市内で教鞭を執る。



文:山田ルーナ