MENU OPEN
Instagram Contact

壊すということ

僕の制作は、完成図に向かってひたすら描くというよりは、その時その時の状況に応じて、チェスのように何手か先をよみながら、判断を繰り返すことで すすめていく。予想外を面白く思い、不完全な美しさを肯定する。

しかし時たま、制作の途中で、バチっとバランスが合ってしまうことがある。まだ完成ではないのに、絵の中で綺麗にバランスが取れてしまう。
これが、制作の中でいちばん苦しい。このバランスを壊さなければ、絶対に先へ進まない。だけどバランスがとれてしまっているので、手を入れることに躊躇してしまう。

…こういう時に思い出すのが、インドのシヴァ神のことだ。

インドの最高神のひとりであるジヴァ神は、創造の神であり、破壊の神でもある。世界を創り出す(再生する)前に、一度出来上がってしまった世界を壊す。創造と破壊…生と死のように、これらは相反するように見えて、じつは一体なのだ。

シヴァ神の存在を思い出しつつ僕は、制作の苦しい段階を乗り越える。

人生で初めての海外、僕はインドを選び訪れた。選んだというより、あるいは呼ばれたのかもしれない。
そこでは 混沌とともに人が生きていた。そうして生きる人々は、破壊と創造が同義であると、その生き方を以て知っているように感じた。

僕は芸術というものを、人が人として生きていくうえでなくてはならないものだと思っている。
描くことでまた学ぶことができる。生き方のようなものを教えられる。善く生きるとは何かを考え、日々を過ごす。

つくり、壊し、つくる。
絵だけでなく僕もまた、その繰り返しを生きるだけなのだ。